アフレコに「一般人・役者(非声優)を使うと、リアリズムがでる」という錯覚

RCA 40A Ribbon Microphone

Image by jschneid via Flickr

いまさらこんなの書くなよ、という批判はあえてガン無視。
アタマによぎったから書くまでだ。(笑)

ここ数年のアニメ作品の声のキャストは二極化する傾向があって、「きちんと本職(声優)を使って従来通りのセオリーで作る」ものと、某ジブリのように「非声優な役者や素人を出して、声のリアリズムを追求する。もしくは役者のバリューを使って宣伝効果を利用する(劇場版に多い)」といったものだ。

まぁ、前者は従来通りの方法だから特に思うことはないけれど、後者は、よほど力量のある(演技の振り幅のある)役者を使わないと、リアリズムなんてこれっぽっちも出ない、とんでもない駄作になってしまうという非常にリスキーなものだ。。
だが某作品を見るたびに、こういうことがわかっていないクリエイターがたくさんいるのかな?と思ってしまう。

「役者の知名度を使った宣伝目的」については、まぁ理にかなっていると思うので、言及することも無いから放っておくとして、まず「リアリズムを出すため」という理由付け(いいわけ)がいまいちよく分からない。

世界観として、「アニメ的世界」「実写ドラマ(映画)的世界」「現実世界」という3つを仮定してみる。

「アニメ的世界」では「声優の声」が普通だし、「実写ドラマ(映画)的世界」では「俳優喋り」が普通、「現実世界」では今となりにいる人やクラスメイト、会社の同僚の「演技の必要が無い」喋り方が普通だ。

何が言いたいかというと、「アニメ的世界」のベクトルでは声優による誇張された「アニメ声」が普通で、ある意味ソレが「リアル」になっている。その世界には、そういう喋り方をする人(キャラクター)しかいないので当然と言えば当然だ。
「現実世界」のベクトルでは、「家族」や「会社の同僚」みたいな喋り方をする人「しかいない」のが普通なので、やはりそれが「リアル」と感じるのだ。

ゆえに、「アニメ的世界」で「(いわゆる)一般人声」や「力量の無い役者の声」を聞かされると「素人演技」にしか聞こえない。反対に「現実世界」で時々見かける「アニメ声」が普段喋りの人の声を聞くと、それには「異端」を感じてしまうマジック。(*1)

「観客」は、浮世から虚構の世界に入り込み、ソレを楽しむ。それが「アニメを見ること」であり「テレビドラマ(映画・舞台)楽しむ」ということだ。だがそういう意味での「リアル」を求めている客に、一部の制作側は間違った答え方をする。『「現実世界」での声がすべてにおいて「リアル」なのだ』という錯覚だ。(*2)

このせいで私たち『観客』はガッカリする。
「俺たちはショーを見に来たのに、この声の上ずった演技の下手な素人のおっさん声、なに??」

アニメやドラマなどは「虚構の世界」を楽しむための装置だ。「浮世を忘れて」ショーを楽しむための「舞台小屋」なのだ。
人々はソレに見合うトリックスターを求めているが、ある地位まで上り詰めた、自分しか見えなくなったクリエイターは、徐々にマスターベーションをするようになる。「声優喋りキモイ。ほら!オレの(ワタシの)新しい方法論だ!リアルだろ?斬新だろ?面白いだろ?」

だが、客が望んでいないものを、喜ぶ客はいない。ソコには「オタク」も「非オタク」も関係ない。喜んでいるのはクリエイターだけだ。
水墨画を見に来た客に、写実派の洋画を見ることを強制するようなもんだ。
「物語」のリアルと「現実世界」のリアルは、根本的に違う。

まぁ、要はクリエイターが一度は必ずかかる「麻疹」みたいなもんなのだろうか。
おだいじに。早く治してくださいね。(笑)




(*1)「現実世界」を基におくとして、アニメやドラマの世界は虚構であり、非現実だ。
実写であるドラマや映画や芝居での役者の喋り方も実は非現実的で、誇張し演技をすることによって、現実的な喋りとは違うものになっている。
第一、腹式呼吸で発声しているクラスメイトとか同僚は、現実にあまりいないはずだ。(笑)
そして、役者喋りと声優喋りも微妙に違う。役者は自分の見た目があって、それを基本に「役どころ」を自分に装着し演技をする。だが声優は見た目も自分ではないし、役どころはもちろん、役の個性も実写のソレより更に突き抜けているコトが多い。だって、ドラマや舞台役者でも「岩」とか「ドラゴン」とか「ボールペン」なんて役はあまりないものねぇ。ゆえに、おなじ「役者」でも役作りの方法論も、多少の相違があるだろう。


(*2)「アニメ的世界」に「実写ドラマの役者」喋りという違うベクトルをぶつけると、双方の「役者」としての位相が、そんなに遠くは無いこともあるので、成功する例もある。ただ、往々にして失敗することの方が多いように感じる。
闇雲に宣伝に走りたい作品は、ソコの特性も無視してキャスティングをするので、ほぼ大失敗をする。(笑)